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長島コラム「乾坤一擲」

5月23日 (日)

小泉「不純」一郎「外交」の限界

小泉首相の訪朝は、拉致被害者家族の方々にさらなる悲劇をもたらしただけで終わった。参院選目当てのパフォーマンスであることを相手側に見透かされ、完全に足元を見られて、相手のペースにはまり込んでしまった。

いろいろな評論家が、さまざまな分析を披露していたが、今回の訪朝が失敗だったと断ずる理由を私なりに一言で表現すれば、これまで首相が言い続けてきた対北朝鮮外交の基本原則である「拉致と核とミサイル問題の包括的解決」を放棄してしまった、ということに尽きる。

身勝手な首相の独断専行によって、決定的な準備不足を強いられた外務省にしてみれば、今回の訪朝は、外交史上に残る痛恨の惨事となった。もともと6月20日首脳会談を目指して、ジェンキンス氏をめぐる問題を日米間で何とか解決しようと努力してきた外務省の担当者は、予定を大幅に前倒しした小泉首相のあまりに身勝手な決断に悲鳴を上げた。10名の安否確認をめぐる調査報告についても、事務方同士で詰める時間を与えられなかった。核とミサイルについての具体的な詰めの交渉も、日朝間はおろか、日米政府間でもまったく調整できなかった・・・。

小泉首相は、何でそんなに急いだのか?

小泉訪朝前日に私を訪れた旧知の中国政府関係者(私が台湾総統就任式に出席したことをやんわり牽制することが彼の主たる目的だったのだが)は、小泉首相は「包括的解決」の原則に則って交渉を進めるべきだ・・・などと青臭い議論を展開する私の発言を一通り聞いた後で、ケラケラと笑いながら「どうせ、選挙目当てでしょ!あんまり多くの成果を期待しないほうが良いんじゃない?8人は確実に帰ってくる。小泉さんとしてはそれで十分じゃない?」と首相訪朝の動機についてズバリ指摘した。北朝鮮の後見役を任ずる中国政府(と同時に金正日総書記)がこの小泉訪朝をどれほど冷めた眼で見ているかを物語っていよう。

余りに動機が見え透いていて、ハナから交渉になるはずもなかった。拉致問題を進展させるなら、最低でも、安否不明の10人の方々の詳細な調査結果を求めるべきだった(日本政府はすでに2002年10月に前回の杜撰な「調査結果」に対し150項目からなる質問書を北朝鮮側に提出済みであるし、しかも、今回は法医学の専門家も同行していたのである)、その他の特定失踪者についても、期限を区切って、強く全容解明を迫るべきであった。また、核問題では、「日朝平壌宣言」の履行を迫って、少なくとも、NPT体制への復帰を確約させ、その上で、IAEAの査察受け入れの意思表示を迫る必要があった。

また、ミサイルについても、日本の大部分を射程に収めるノドン・ミサイル200基の撤去を断固として求めるべきであった。首相の口からノドンの話が一言も出なかったことは、奇異と言うほかなく、拉致被害者のみならず、1億2千万の国民の生命に対する余りに無責任な態度といわざるを得ない。

しかし、小泉首相の眼中にはそのいずれも死活的に重要な問題とは映っていなかったようだ。挙句の果てに、あろうことか、どこから見ても「身代金」としか理解できない大規模な「人道支援」を約束し、勢い、経済制裁カードの封印まで宣言してきてしまったのである。

焦点の年金改革に加えて、この屈辱的な北朝鮮外交の失敗も参院選挙の新たな争点となるであろう。さらに、米国内でもすでに破綻しつつあるイラク戦争の後始末についても、ブッシュ大統領と無理心中を図ろうとしている小泉首相の政治判断は厳しく批判してゆかねばならない。永田町では、早くも、追い込まれた小泉首相による一か八かの「ダブル選挙」説が急浮上している。そうなったら、正々堂々と受けて立つしかない。